2008年7月3日木曜日

掃除機物語7

後日撮影してもらった掃除機の画像

さて、今日は彼のために、物置に板切れを捜しに行くところからである。ところで、私は2年前に脳出血になって、左の片麻痺がまだ残っている、それで、私が今書いている、このブログにも前に書いたことであるが、道路のように平らではない庭を歩くことは、今のところまだスムーズにはいかない。

しかし、去年のように杖はもういらなくなっている。物置に着いた私は、まずドアを開けた。奥の方に長い3畳の広さの部屋である。数年前に、大工さんに作ってもらった物である。この左右にある長い方の壁の床に近いところに、板切れはあるはずである。そこで私は、まず右側の壁に近寄ってみた。視力のない私は、ここまで来て初めて壁際に自転車が立てて置いてあることに気がついた。目当ての板切れは、壁と自転車の間にあるはずである。

そこで、自転車を壁と平行を保ちながら壁から離すように移動させて、私が壁際に行けるようにするのが良いのであるが、左の手が思うようにならない私は、それも面倒なので、自転車の傍に屈み込んで車体の隙間から手を入れて自転車の向こうにある板切れを取ろうとした。しかしどうしても手で確かめるしかない視力のない私は、自転車の隙間から手を入れて見るだけでは横の方まで手が届かない。

それで今度は立ち上がって、自転車の上に体を乗せかけて、腕を自転車の向こう側の下まで伸ばして、先ほど手が届かなかった所を探そうとした。しかしこれも体を乗せているのがしっかりした台ではなくて自転車なので、安定が悪く思うようにはいかない。

観念した私は、やはり自転車を壁際から離すしかなさそうであることをしぶしぶ認めた。そこで私は、自転車の後側に移動した。病に冒されていない方の手つまり右の手でゆっくりと倒れないように気をつけながら、少し動かしては反対側詰まり前の方を動かす。これを数回繰り返して、私の体が入るぐらいの隙間を、壁と自転車との間にやっと作った。

サーッ、今度はうまく板切れが探せるだろう。板切れは思ったよりも多く、何枚もあった。それがしかし、ここには、幅が広くて、縦と横とを2度切る必要のありそうな板しか無かった。
面倒になって私は無理な姿勢で疲れてもいて、やめようかとも思った。しかし、あの玩具いや玩具ではない。確かにやくにたつ掃除機である。これが、いや最近は彼である。この彼が家の中を遊び回っているのを眺めたいと強く期待している私は、元気を出して、右壁から離れて、左側の壁際に屈み込んだ。

今度は手頃な板切れがあった。それを家の中に持ち帰った。元気の良い時には中屈みで鋸等を使ったりもしたが、最近はまだそこまではいかない。座り込んで、脚で物を押さえて、やっと板を切ることができた。

次は、この切った板をベッドの頭側の床に近い所にある横の桟に彼が潜り込まないように、釘で打ち付けるだけで完成である。

ここまで来て、私は左手で釘を持つことが無理なことに気が付いた。先ほども書いたように、私は脳出血の病み上がりの身で、左の片麻痺のために、釘を打つ時に左手でその釘を支え持つ事ができないのであった。しかしどうしても掃除機がベッドの下の横桟の下に潜り込まないように、板切れはなんとしてもこの横桟にとり付けなければならないのである。

漱石の猫なら、ここで、第1の心理を発見したとかなんとか言うところであろうが猫の手より働きが悪い、左手しか持たない私の頭では、そんな心理などは浮かばない。

座り込んでボーッとしながらも、私は考え続けた。
「左手が衰えていると、頭の働きはそれに比例して衰えているのだろうか。」
「漱石の名無しの猫よりも、私の頭はやはりわるいのだろうか。」
そんな、何にもならないことを考えないで、もっとまともに素直に釘のことを考えなければならない等と考えた時、素直の反対のねじれを思いついた。そうだ。

素直な釘ではなくて、ねじ釘でやると、ほとんど右の手だけで板切れを横桟に固定できるのではないかと思いついたのである。

私は立ち上がった。廊下にある物入れを開けて大工道具を入れた箱を抱えて仕事の部屋へ向かった。そして、仕事用のベッドの傍に座り込んだ。次に、道具箱から錐を出した。私の家の真ん中の娘の中学校の時に使っていた道具が残っていたものである。現在の私は、足で、板を踏みつけて固定することができないので、脚を前に投げ出して、その下に板切れを敷いて固定した。板切れには2カ所穴を開けなければならない。錐を使うことは、病後2回目だと思う。一度目はこのブログにも書いたが、カレンダーに穴を空けた時であった。今回はその時よりも左手の指は伸びていて、少しはましだが、それでも両方の手を指先を向こうに向けて真っ直ぐに合わせることが長い時間はできない。合わせても長く続かなかったり、掌の密着度が弱くて錐に力が入らなかったりするので、左右の掌を指先を90度向きをずらして合わせて掌の密着度を上げて錐を使った。時々は片手で錐を回したりして、何とか錐の先端が少しその板切れの片面から覗く程度に穴を空けることができた。

つぎは、この板切れをいよいよベッドの下の方にある横桟にねじで留めることをする番である。ドライバーを使ったが、右の手だけで、ドライバーをねじに当てた後、ドライバーを回し始めるまでには少し苦労したが、うまく板切れは桟に嵌った。
そこで彼に動いてもらって、彼がこの桟の下に潜り込まずに掃除を続けるかを確かめた。彼は、桟の下に嵌めた板切れにぶつかっては横に移動している。私はホッとした。

手が普通に動くのであれば簡単な作業も、大事業をなし遂げたような気分になって、その後は美味しいビールをゆっくり楽しんだ。


これで、掃除機の物語は終わりであるが、これからも材料を見つけては、大好きなロボットの事などを書いて見たい。これを読んでくださっている方も、ロボットに関する話があればご一報いただけないだろうか。


oushi@s6.kcn-tv.ne.jp

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